ありのままの自分でいたい気持ちと、何者かになりたい自分
現代の若者が抱える大きな葛藤の一つは、「ありのままの自分でいたい」という気持ちと、「何者かになりたい」という願望の間で揺れ動くことです。一見、相反するこの2つの志向。しかし、どちらも自己を肯定し、人生を豊かにするための重要な要素です。このブログでは、このテーマを深掘りし、現代社会が若者に与える影響や、矛盾の中で見つけられる真の自由について考えてみます。
1. ありのままでいたい気持ちの背景
「ありのままでいたい」という願いの背後には、いくつかの要因が存在します。 他者の評価に縛られる社会 若者が「ありのままでいたい」と感じる背景には、他者の評価が大きく影響しています。SNSの普及により、他人の視線や評価が常に可視化され、競争が日常の一部となっています。競争社会では評価基準が固定化され、自分の意志や条件を変える自由が奪われがちです。その枠組みに窮屈さを感じることで、「ありのままでいたい」という気持ちが芽生えるのかもしれません。 疲弊した大人の価値観が伝播する 「自分らしく」という言葉は、社会に疲れた大人たちが抱いた願望として広まったように思います。また、選択肢が増え、どれを選ぶ?を問われる機会が増えたこともその広まりを助長したのでしょう。それがSNSなどを通じて若者にも伝わり、彼らもまた「自分らしくありたい」と感じるようになっています。ただし、その「自分らしさ」が、実際には他者にどう見られるかを意識した上でのものだとしたら、本当の意味での自由ではありません。
2. 何者かになりたいという願望
一方で、「何者かになりたい」という願望も強く存在します。これは、自己実現や社会的承認への欲求に根ざしたものです。しかし、この願望が他者からの評価に過度に依存している場合、常に他人と比較し、自己否定を繰り返すリスクがあります。
矛盾する2つの志向
「ありのまま」でいたい気持ちと「何者かになりたい」願望は、一見矛盾しているように見えますが、実は同じ根源から生まれたものとも言えます。他者評価や競争の中で自分を見失った結果、「自分らしさ」を取り戻したいという願いが強くなる一方で、社会の中で何か特別な存在として認められたいという欲求も湧き上がるのです。
3. ありのままと変化の関係
「ありのままでいること」と「変化し続けること」は矛盾するのでしょうか?これは、多くの人が抱く疑問ですが、実は矛盾しないどころか、密接に結びついています。
固定された自分 vs 進化する自分
「ありのままでいる」とは、今の自分をそのまま受け入れることだと考えられがちです。しかし、それが「変化を拒むこと」につながってしまう場合、成長の機会を逃してしまいます。一方、「変化し続けること」は、新しい自分を発見するプロセスですが、これが自己否定に基づく場合には、心が疲弊してしまいます。
本当の「ありのまま」とは
本当の「ありのまま」は、固定された自己像にとどまるのではなく、変化や進化をも含めた自分を受け入れることです。私たちは時間とともに環境や価値観が変化する存在です。その変化を楽しみ、受け入れる柔軟性を持つことも「ありのまま」であり続けるための大事なポイントでしょう。
他者との比較と「自分らしさ」の発見
多くのキャリア支援を行ってきた中で気づいたのは、「他者との比較を絶対的基準にしない人」は「自分らしさを見つけたい」と言いません。なぜなら、「自分らしさ」とは本来、自然と持っているものであり、それを意識する必要がないからです。人は自分の強みや個性を自然と備えているものとして気づかずに生きています。それがどれほど素晴らしいものであっても、自分自身では当たり前すぎて認識しないことが多いのです。他者との比較を通じて初めてその存在に気づき、それを知った後も「自分らしさとは」と深く考えることは少ないでしょう。
しかし、ここで重要なのは「比較そのもの」が悪ではないという点です。人は誰しも、他者と比較しながら自分の立ち位置や価値を認識します。問題は、その比較をもとに自分の意思をどのように決定するかにあります。他者からの評価や期待に完全に依存した意思決定を行うことで、自分らしさを失うリスクが生じます。一方で、「どうしたいのか」「どうありたいのか」「どうあるべきなのか」を自身に問い、それに基づいて意思決定をすることが、自分らしさを守る鍵となるのです。
現代では、正解を探すことが大きな価値として認識されています。成長を感じ辛く消極的な時代の中、失敗を恐れる風潮が強まり、「絶対正解」を求める意識が高まっています。しかし、正解はしばしば他者に依存して決められるものであり、自分でゴールとプロセスを決める「自分らしさ」とは対極にあるものです。失敗を恐れるあまり、決められた道を進むことが安心とされる一方で、他者から押し付けられることや、比較されることを嫌がる。こうした狭間で揺れる中、「どうしたいのか」を自ら問い、意思決定を恐れないことこそが、本来の自由であり、「自分らしさ」を体現する姿勢と言えるのではないでしょうか。
ついつい正解をググりに行ってしまう自分を抑え、自分なりの答えを出そうとするその取り組みが、実はクリエイティブに生きるための入口なのかもしれません。今、人々に求められている創造性を発揮する第一歩目は、正解探しを目的にしないことでしょう。正解探しはAIに任せ、本来の人間の勘や感覚を取り戻し、大いに発揮することが必要とされているのです。この背景があるからこそ、創造力が鍵と言われる理由がより深く理解できるのではないでしょうか。
4. 自分らしく変化し続けるために
これらの視点を踏まえて、若者が「ありのまま」でありながら「変化し続ける」ためには、以下の問いを自分に投げかけてみるとよいでしょう。
- 「ありのまま」でいることが、今の自分を固定化する枠になっていないか?
- あなたが思う「ありのまま」は、自分自身が作ったもの?それとも社会が用意した定義?
- 「ありのまま」でいることと、変化し続けることは矛盾するのか?
- 他者に見せる「自分らしさ」ではなく、誰にも見せなくても大切にしたい自分は何か?
- その意思決定は、自分の価値観や目指す方向に合致しているか?
結論
若者はどの時代も葛藤の中にいて、そして、それは当たり前のことです。しかし、その葛藤の中で自分なりの答えを見つけたとき、人は本当の意味での「自分らしさ」を手に入れるのではないでしょうか。その答えは一つではありません。それぞれが持つ個性や価値観、人生経験によって形作られるものです。そして、その答えを見つける過程そのものが、成長であり、自分らしさを体現する道です。 そして、変わりゆく自分を恐れず、むしろその変化を楽しむことで、ありのままの自分と成長し続ける自分を両立させることができます。
葛藤の中で見つける小さな答えが、自分らしい未来を切り開く鍵になります。自分の人生に他者の成功パターン・タイパ・コスパを持ち込まず、焦らず、一歩ずつ自分のペースで実際に行動して試して進みましょう。どんな道を選んでも、その選択があなたを形作ります。