シカゴ大学が一部授業を「あえてアナログ」に。AI時代、人間の中から何を外注しすぎてはいけないのか?
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published : 2026/8/28

AI時代に、人間の中から何を外注しすぎてはいけないのか。教育ニュースから、思考力や想像力を育てる「面倒なプロセス」の価値を考えます。
シカゴ大学が一部授業を「あえてアナログ」に。AI時代、人間の中から何を外注しすぎてはいけないのか?
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シカゴ大学が一部授業を「あえてアナログ」に。AI時代、人間の中から何を外注しすぎてはいけないのか?
AIを使えば、調べる、比較する、整理する、文章を書くといった作業を、これまでとは比べものにならない速さで進められるようになりました。仕事では、AIを使うことがこれからますます当たり前になっていくでしょう。
一方、アメリカの教育現場では今、少し興味深い動きが出ています。
AIを禁止するのではなく、AIを使うことを前提にしたうえで、人間自身が読む、考える、疑う、議論する時間を、どう残すのかを考え始めているのです。
最近気になった4つのニュースを紹介します。
1.シカゴ大学、一部授業を「あえてアナログ」に
2026年8月25日、シカゴ大学が、一部の社会科学系コア科目でデジタル機器の利用を制限し、印刷されたテキストを読み、対面で議論する「analog(アナログ)」な授業環境を進めることが報じられました。
狙いは、デジタル機器による注意散漫を減らし、文章をじっくり読み、学生同士が直接向き合いながら議論できる環境をつくることです。
興味深いのは、シカゴ大学がテクノロジーやAIに否定的なわけではないことです。同大学はAnthropicとも提携し、学生や教職員がClaudeを利用できる環境を整えています。
つまり、
AIを使えるようにする一方で、AIやデジタル機器を介さず、人間だけで読む、考える、話す時間も残す。
その両方を教育の中に置こうとしています。
記事を読む: Axios「UChicago limiting tech in classes」

2.ニューヨークの高校教師、「AIを使う前に自分で考える」授業へ
翌8月26日、教育メディアEdSurgeには、ニューヨーク市で13年間、英語と特別支援教育を教えてきたMelinda Medina氏による実践が掲載されました。
Medina氏自身はAIを日常的に利用しています。しかし、生徒には最初からAIに答えを出させません。
- まず文章を読む。
- 自分で書き込む。
- 証拠を探す。
- 友人と議論する。
- 自分なりの主張をつくる。
その後でAIを使い、反論を考えさせたり、自分の論理の弱いところを探したり、異なる解釈と比較したりします。手書きによるブレインストーミング、紙の文章への書き込み、デジタル機器なしの議論も授業に戻しています。
問題にしているのは、AIそのものではありません。
AIに思考を任せる「cognitive offloading(認知的オフローディング)」によって、生徒が本来自分で行うべき認知的な作業まで失われることです。
完成したレポートだけを見れば、非常によくできている。
ところが、鉛筆と紙で同じ生徒に考えさせると、自分の主張を整理したり、根拠を示したり、文章として展開したりすることが難しい。
「出来上がったもの」と「本人の中にある力」が一致しなくなる可能性を、現場の教師が感じ始めています。
記事を読む: EdSurge「Protecting the Student Mind in the Age of AI」
3.アメリカの学校、「AI禁止」から「AIを疑う力を教える」へ
8月22日、AP通信は、アメリカの学校でAIリテラシー教育が広がっていることを報じました。生成AIが学校に入り始めた当初は、不正利用をどう防ぐか、AIを禁止するべきかが大きな問題でした。
しかし現在は、実際にAIを使わせながら、
- AIは間違うことがある
- 出てきた情報を検証する必要がある
- バイアスやプライバシーの問題もある
- どのような場面で使うのか
- 逆に、どのような場面では使わないのか
そこまで含めて教える方向へ変わりつつあります。
APによると、アメリカでは37州が学校でのAI利用について何らかのガイダンスを出しています。つまりAIリテラシーとは、単に「AIを上手に使えること」だけではない。
AIを疑い、検証し、自分で使うか使わないかを判断する力まで含めて考えられ始めています。
記事を読む: AP「Schools are starting to teach AI literacy」
4.ChatGPTは「良い答え」を、批判的思考訓練は「多様な考え」を生み出した
そして8月27日、Bocconi UniversityとOpenAI Economic Researchの研究結果が公表されました。
この研究では、経済・金融・経営を学ぶ1年生1,053人を、
- ChatGPTを利用するグループ
- 因果推論の訓練を受けるグループ
- その両方を行うグループ
- どちらも行わないグループ
に分け、実際のビジネス課題に取り組ませました。
結果は非常に興味深いものでした。
ChatGPTを利用した学生は、より多くのアイデアを出し、論理的で完成度の高い回答をつくり、専門家の回答にも近づきました。つまりAIは、経験の少ない学生でも、質の高い成果物をつくることを助けたのです。
一方で、因果推論の訓練を受けた学生には別の効果がありました。
- なぜそのアイデアが機能するのか。
- どんな場合には機能しないのか。
- 前提は正しいのか。
そうしたことを考える傾向が強まり、他の学生とは異なる、より幅広く独自性のあるアイデアが生まれました。そして、AIと批判的思考訓練の両方を行った学生には、双方のメリットが見られました。
この結果は、
「AIを使うと人間は考えなくなる」という単純な話ではありません。
むしろ、AIが伸ばしてくれるものと、人間自身が考える訓練によって伸びるものは、同じではない。 ということを示しています。
AIを使えば、良い成果物をつくることができる。
だからこそ、完成した成果物だけでは、本人がどれだけ理解し、考えたのかが以前より分かりにくくなる。
研究を紹介したOpenAI自身も、AIによって洗練された回答をつくりやすくなるなら、教育側も「完成した答え」だけでなく、独自性や推論、複数のアプローチを評価する必要があると指摘しています。
研究を読む: Bocconi University「Better evaluations with ChatGPT. Critical thinking broadens ideas」
OpenAIによる解説: Better answers, broader thinking: What students gain from ChatGPT and critical-thinking training

4つのニュースを見て、気になったこと
ここからは、これらのニュースを読んで考えたことです。
4つに共通しているのは、AIを使わない方がいいという話ではありません。
仕事でも教育でも、AIを使えることはこれから必要になるでしょう。私自身、仕事ではAIを使うことで、調査、整理、比較、文章化など多くの作業が以前より速くできるようになりました。
だからこそ気になるのが、人間の中から、何を外注しすぎてはいけないのか。ということです。
AIは「答え」だけでなく、「途中」まで短くする
AIの大きな特徴は、答えを教えてくれることだけではないと思います。
これまでなら、
- 何を調べればいいのか考える。
- 情報を探す。
- 関係ありそうなものを並べる。
- どれを使うか迷う。
点と点をつなげてみる。
うまくつながらなければ戻る。別の可能性を考える。そうした時間を経て、ようやく一つの答えにたどり着いていました。
AIは、その「途中」のかなりの部分まで一気に進めてくれます。人間が一つの「点」を持っていれば、その背景を調べ、別の点と結び、きれいな「線」にすることまでできる。非常に便利です。
しかし、それを繰り返していると、
「これは、あの話とつながるのではないか」
「なんでこうなるんだろう」
「別の立場から見たら?」
「この先はどうなる?」
と、自分で線を引く機会そのものが減る可能性があります。想像力も同じではないでしょうか。
まだ見えていないものに、「もしかしたら」と線を引く。
それには、ある程度の材料と、考える時間と、寄り道が必要です。
AIによって「努力の差」が見えなくなる可能性もある
もう一つ気になることがあります。
以前なら、十分に調べず、十分に考えなければ、完成したものにもその差が表れやすかった。しかしAIを使えば、あまり深く考えていなくても、一定水準以上の成果物をつくることができます。
それ自体はAIの素晴らしいところです。
ただ、成果物が整っているために、本人の中にどれだけ知識があり、どれだけ点と点をつなげられ、どれだけ自分で考えたのかが見えにくくなる。ということも起きます。
努力して考える人は、AIを使ってさらに思考を広げる。一方で、考えるプロセスそのものをAIに渡してしまうこともできる。
同じような成果物が出来上がっていても、本人の中に蓄積されたものはかなり違うかもしれません。
Bocconi Universityの研究結果は、この違いを考える一つの材料になると思います。
「早く答えが出る」ことに慣れすぎない
そして、もう一つは時間感覚です。
AIなら、聞けばすぐに答えが返ってきます。
- 調査も速い。
- 整理も速い。
- 文章も速い。
それが当たり前になると、
- 分からない。
- なかなか進まない。
- 結論が出ない。
- 時間がかかる。
そういう状態そのものに、ストレスを感じるようになる可能性があります。
しかし、人間が何かを理解したり、自分なりの考えを持ったりすることは、必ずしも速くできるものではありません。本を読んでも意味が分からず、少し戻る。調べていたら、全く別の情報に出会う。やってみたけれどうまくいかず、「なぜだろう」と考える。人と話して、自分とは違う見方に初めて気づく。最初は興味がなかったことが、途中から面白くなってくる。
そういうことがあります。
社会は合理化されるほど、人間が成長するために必要だった「面倒なプロセス」を失っていないだろうか。
今回のニュースを見ながら、一番考えたのはこのことでした。
では、「面倒なプロセス」を意図的につくる必要があるのではないか
ここまでなら、「AIは便利だけれど、思考力も大切ですね」という話で終わります。しかし、それだけでは十分ではないと思います。
AIを使うことを止めないのであれば、人間自身が考えなければ前へ進めない機会を、別の場所で意図的につくる必要があるのではないでしょうか。
これまでは、そういう機会が社会や教育の中に自然に存在していました。
例えば部活動です。
ここで言いたいのは、昔ながらの学校部活動という制度をそのまま残すべきだ、ということではありません。 部活動の中にあった「機能」の話です。
- 長い期間、同じ仲間と何かに取り組む。
- 思ったように上達しない。
- 試合に出られない。
- 意見の合わない人とも一緒に活動する。
- 後輩に教える。
- チーム内で役割を持つ。
- 負ける。
- 原因を考える。
- 方法を変える。
- そしてまた続ける。
ここには、検索して答えを出せない問題がたくさんあります。
- 人を見る。
- 自分を見る。
- 想像する。
- 伝える。
- 失敗する。
- 調整する。
- 耐える。
- もう一度考える。
競技そのものとは別に、こうした複数の能力を使う「プロセス」が含まれていました。
読書もそうです。長い文章を最初から最後まで読む。分からなくても少し読み進める。前に戻る。著者の考えを追う。自分ならどう考えるかを頭の中で繰り返す。
探究活動やものづくりなら、予想して、やってみて、失敗して、理由を探して、やり直す。人との議論なら、自分と全く違う考え方に出会い、相手がなぜそう考えるのかまで想像する必要があります。
どれも効率はよくありません。
だからこそ、合理化が進む社会では真っ先になくなりやすいものかもしれません。

守るべきなのは「アナログ」ではなく、その中にあった機能
シカゴ大学が紙の教材を使うからといって、これからすべて紙に戻せばいいわけではありません。AIをやめればいいわけでもありません。部活動も、昔の制度をそのまま残せばいいとは思いません。
重要なのは、その方法や制度の中で、人間のどんな能力が育っていたのかを見つけること。
そして、その機能が必要なのであれば、新しい時代に合う形で残すことではないでしょうか。
例えばAIを使う授業でも、
- 最初の10分だけはAIを開かず、自分の仮説を書く
- AIから回答を得た後に、「反対の可能性」を自分で考える
- 完成品だけではなく、なぜその答えにしたのかを説明させる
- 数週間かけて、途中で何度も失敗するプロジェクトをつくる
部活動や課外活動なら、単に技能を習得する場としてではなく、異年齢との関係、役割、協働、継続、試行錯誤といった機能をどう残すかを考える。
つまり、成果を出すための効率化と、人間を育てるための非効率を、意図的に分けて設計する。これから必要なのは、そんな発想なのかもしれません。
皆が「不要」と捨てるものの中に、必要なものが残っているかもしれない
社会が変わると、古いものがなくなっていくのは当然です。新しい技術によって不要になる作業を、無理に残す必要もありません。
ただ、そのときに、
「これは非効率だからいらない」
「AIでできるからいらない」
「もっと早くできるから、このプロセスはいらない」
と、成果だけを基準に判断してしまうと、その途中に別の役割がなかったかを見落とす可能性があります。 皆が「面倒だから」「非効率だから」と捨てていくものの中に、次の時代だからこそ必要になるものが残っているかもしれない。
AI時代に守るべきなのは、昔の方法そのものではない。
これまで人間を賢くしてきた「プロセスの機能」なのではないでしょうか。
AIに任せるところは任せる。その一方で、自分で問い、想像し、迷い、試し、人と関わり、考え抜かなければ前へ進めない場所をつくる。
AI時代の教育に必要なのは、新しいAIスキルを教えることだけではなく、「人間を育てるための面倒なプロセス」を、どこに、どのような形で再設計するのか。
シカゴ大学をはじめとする最近の動きを見ながら、これから教育について考える上で重要なテーマになるのではないかと感じています。



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