AIで「簡単な仕事から覚える」が変わる。若手のキャリアはどうなる?
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published : 2026/9/8

「まずは簡単な仕事から」が通用しなくなる? AI時代の若手キャリアに何が起きるのかを考えます。
AIで「簡単な仕事から覚える」が変わる。若手のキャリアはどうなる?
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AIで「簡単な仕事から覚える」が変わる。若手のキャリアはどうなる?
AIによって、若手の仕事が変わり始めています。最近、Financial Timesで興味深い記事を読みました。AIがエントリーレベルの仕事の一部を担い始める一方、企業は若手にも、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決、批判的思考、創造性、関係構築といった、これまでならもう少し経験を積んでから求められていた能力を期待し始めている、という内容です。
「新人はまず簡単な仕事から覚えていく」。そんなキャリアの入口そのものが、少しずつ変わっているのかもしれません。
このニュースを見て、以前からキャリア相談の中で考えてきたことを思い出しました。これからは、「何ができるか」だけではなく、「自分が介在したことで何を動かしたか」が、キャリアを考えるうえでより重要になるのではないか。
今回は、最近の労働市場やAIに関する調査を見ながら、この問いを考えてみたいと思います。

AIによって仕事の入口が変わるとき、若手に求められる経験も変わっていくのでしょうか。
若手の仕事に、「シニアの能力」が降りてきている
この変化は、一つの記事だけで指摘されているものではありません。PwCが2026年に公表した「Global AI Jobs Barometer」は、世界6大陸、10億件を超える求人広告を分析しています。
そのうち米国のエントリーレベル求人240万件を調べたところ、AIの影響を受けやすい若手向け職種では、AIの影響が小さい職種に比べて、リーダーシップや判断、創造性、対面での関係構築など、従来ならより上位の職位に求められていた能力を要求する確率が7倍になっていました。
こうした「シニア化したエントリー職」は2019年から35%増えた一方、それ以外のエントリー職は10%減少しています。
つまり、若手の仕事が単純になっているのではありません。むしろAIが定型的な業務を担うほど、人間側には早い段階から判断やコミュニケーション、創造性が求められる仕事が増える可能性があるということです。
従来なら、「まず資料をつくる」「情報を整理する」「先輩の指示通りに作業する」といった仕事を重ね、その後に判断やマネジメントを経験することが一般的でした。AIが前半部分を大きく支援するようになると、その階段が短くなる可能性があります。
ただし、「若手の仕事がなくなる」と決まったわけではない
一方で、若手にとって厳しい兆候もあります。Stanford Digital Economy Labが、米国ADPの数百万人規模の給与データを分析した研究では、AIの影響を強く受ける職種で働く22~25歳の雇用は、影響の少ない職種と同じペースで伸びた場合と比べて、2026年6月時点で約19%低い水準となっていました。
しかも、その差は既存の若手社員が大量に解雇されたというより、新たな若手採用が減ったことによって生じていると分析されています。ただし研究者自身も、経済全体でAIによる大規模な雇用喪失が起きているとは結論づけていません。
別の未来を示す調査もあります。PearsonとCognizantが、米国・英国・インドの大企業で働く人事責任者750人を調査したところ、94%が「AIによって今後5年間で新しいエントリーレベル職が生まれる」と回答しました。96%は、エントリー職そのものが、AIを使ったり監督したりする仕事へ変化していくと予測しています。
つまり、若手の仕事がすべて消えるというより、「仕事のスタート地点がつくり替えられている」と考えた方がよいのかもしれません。
AIが減らしているのは単純作業だけではなく、若手が仕事の勘所を身につけてきた「経験の入口」でもあるのかもしれません。

AIが減らしているのは単純作業だけではなく、若手が仕事を覚えてきた「経験の入口」でもあるのかもしれません。
AIをたくさん使えば、成果が出るわけでもない
日本でも興味深い調査があります。パーソル総合研究所が2026年、全国の正規雇用者3,300人を対象に行った調査です。
生成AIを週4日以上使う人同士を比較しても、成果には大きな差がありました。その差と関連していたのが、「集める」「決める」「確かめる」「壊す」「蓄える」という、パーソルが「メタ・スキル」と呼ぶ能力です。
メタ・スキルが高い人は低い人と比較して、仕事のやり方の見直し、成果水準の向上、業務スピードの向上などで3.3~3.6倍の成果を生み出していました。
AIを使えるか。何回使っているか。それだけでは、成果の差にならない。情報を集め、優先順位を決め、現実で確かめ、うまくいかなければ壊してやり直し、その経験を次へ残す。結局、AIが出したものを現実の仕事へどう接続するかが必要になります。
ここを見ていて、私はあるキャリア相談を思い出しました。
「専門性がないのが不安です」と相談された
新卒の頃から、折に触れてキャリアについて相談を受けてきた30代の女性がいます。あるとき彼女から、「自分には専門性がないのが不安です。これから、どんなスキルを身につけたらいいでしょうか」と相談されました。
マーケティングを学ぶ。何かの資格を取る。新しいツールを使えるようになる。もちろん、それらも意味があります。私も、知識や法則を学ぶことは大切だと伝えました。
ただ、そのとき彼女にはもう一つ話しました。彼女の場合、すでに仕事を任され、人と関わり、プロジェクトに介在できる立場にいます。だから、新しいスキルを集め続けることだけではなく、そろそろ「その力を使って何かを動かした経験」をつくることも大切なのではないか、と。
例えば、人を巻き込む。止まっているプロジェクトを前へ進める。誰かを説得する。異なる立場の利害を調整する。意思決定を変える。企画を実行まで持っていく。そして結果を出す。
私はそれを、単なる「スキルアップ」とは少し違う、キャリアアップにつながる経験として考えています。
ただし、これは「30代になったら勉強をやめるべき」という意味ではありません。転職する人もいる。新しい専門領域へ進む人もいる。30代以降でも、新しい知識を大量に学ぶ必要がある時期は当然あります。
彼女の場合は、すでに学んだものを現実で使える土俵を持っていた。だからこそ、「次に何を学ぶか」と同じくらい、「今持っているものを使って何を動かすか」を考えてみてはどうか。そう伝えました。

次に何を学ぶかだけではなく、今ある力を使って「何を動かすか」を考えてみる。
「スキルアップ」と「キャリアアップ」は、同じなのだろうか
例えば、マーケティングを学んだ。AIを使えるようになった。プレゼンテーションが上手になった。データ分析を学んだ。これらは、自分の中に「できること」を増やします。
一方で、顧客の課題を見つけた。施策を提案した。社内を説得した。必要な人を巻き込んだ。途中で問題が起きて計画を修正した。最後まで実行した。結果として問い合わせや売上が変わった。
こちらには、知識とは違うものが含まれています。能力を、現実に作用させた経験です。AIが「できること」を増やしてくれるほど、この違いは大きくなるのではないでしょうか。
だからといって、専門性の価値がなくなるわけではない
ここは非常に重要です。「AIがあるのだから、専門性はいらない」という結論にはなりません。
むしろPwCの調査では、AIによって仕事が二つの方向へ分かれ始めていると分析されています。一つは、AIによって専門家でなくても取り組みやすくなる仕事。もう一つは、AIが専門家の能力を増幅し、専門知識と人間の判断の価値がさらに高まる仕事です。
後者の「professionalised」と分類された仕事は、AIによって民主化される仕事より求人の伸びが2倍、賃金の伸びも42%高いと報告されています。
専門性の価値が下がるのではありません。むしろ、高度な専門性 × AI × 人間の判断によって、これまで以上に価値を生む人も出てきます。
Harvard Business Schoolが2026年に紹介した研究も興味深い結果を示しています。投資関連の記事をつくる仕事を、専門家、隣接するマーケティング職、専門領域から離れた技術職がAIを使って行いました。
アイデアを整理する段階ではAIによって差がかなり縮まりました。しかし文章を完成させる段階では、専門領域から遠い技術職は、専門家やマーケティング職より約13%低い評価となりました。
AIは「地図」を渡してくれる。しかし、実際の土地を歩くためには、まだ経験や専門知識が必要な場合があるということです。
一方で、AIは未経験者を早く育てる可能性もある
反対方向の研究もあります。5,179人のカスタマーサポート担当者を対象に生成AIを導入した研究では、AIを使った人の生産性は平均14%向上しました。特に新人や低スキル層では34%向上しています。
AIが、優秀な社員の仕事の進め方を新人へ伝える役割を果たし、経験を積むスピードを速めた可能性が指摘されています。これは、若手にとって大きなチャンスでもあります。
これまで数年かけて習得していたことを、AIによってもっと早く身につけられるかもしれない。だとすれば、私は逆にこう考えます。
「できる」までの時間が短くなるほど、その次に何をするかが重要になるのではないか。
AIによって基礎能力を早く獲得する。専門性を深める。そして、それを使って現実の仕事へ働きかける。スキルを持っているだけではなく、スキルを使って何かを動かす。今回考えているのは、そういうことです。
「何を動かしたか」は、どう証明するのか
ただ、「何を動かしたか」にも問題があります。例えば、「私が売上を20%伸ばしました」と言ったとしても、本当にその人の力なのでしょうか。
市場全体が伸びただけかもしれません。上司の判断が良かったのかもしれません。チームメンバーのおかげかもしれません。逆に、非常に良い仕事をしたのに、外部環境によって数字に表れなかった人もいるでしょう。
だから私は、単純な結果だけを見るのも違うと思っています。キャリアの中で残したいのは、「介在の証拠」なのかもしれません。
例えば、次のような流れです。
- 課題:何が起きていたのか
- 判断:自分は何を問題だと考えたのか
- 働きかけ:誰に、何をしたのか
- 変化:その結果、何が動いたのか
- 結果:最終的にどうなったのか
「マーケティングができます」だけでは分からない。でも、「問い合わせが落ちている原因を考え、広告だけではなく導線に問題があると判断した。制作担当と営業を巻き込み、導線を変更し、その後問い合わせが改善した」と説明できれば、その人が仕事の中で何をしたのかが見えます。
成果を派手に見せるためではありません。自分の能力が、現実の中でどう使われたのかを説明できること。それ自体が、キャリアの資産になるのではないでしょうか。
結果だけではなく、「自分がどのように介在したのか」まで説明できる経験を残す。
「できること」を増やす。その次に、「動かしたこと」を増やす
新しいことを学ぶ必要がなくなるわけではありません。むしろAI時代は、必要なスキルそのものが速く変化しています。学び続けることは、これまで以上に重要になるでしょう。
ただ、「次は何を勉強しよう」「次はどの資格を取ろう」「次はどのツールを覚えよう」と、自分の中へ能力を増やすことだけがキャリア形成なのか。
ある程度「できること」が増えたら、その力を一度、現実にぶつけてみる。人を巻き込む。プロジェクトを進める。意思決定を変える。顧客の行動を変える。組織のやり方を変える。その過程で、思い通りにいかない経験もする。そして、また学ぶ。
学ぶ → 使う → 動かす → 振り返る → また学ぶ。
これからのキャリアには、そんな循環がより重要になっていくのかもしれません。
AIが「できる」までの距離を短くしてくれるほど、その先にある、「その力を使って、あなたは何を動かしたのか」という問いの意味は、大きくなっていくように思います。
キャリア支援の現場でも、この問いを確かめていきたい
私自身、これまでキャリア相談を受ける中で、「何を学べばいいか」だけではなく、その人がすでに持っている力をどう仕事の中で使い、自分が介在したことで何を動かしたかという経験につなげていくかを大切にしてきました。
ただ、それがこれからのキャリアでどこまで重要になっていくのかは、まだ分かりません。AIによって仕事の入口も、求められる能力も、これからさらに変わっていくはずです。
だからこそ私も、目の前の人に「次に何を学ぶか」だけを提案するのではなく、今持っている力をどこで使い、どんな経験をつくれば、その人の次につながるのかまで一緒に考えていきたいと思います。
ニュースやデータを追いながら、実際のキャリア支援の現場でも、この問いを確かめ続けていきたいです。
参考資料
- Financial Times「Business schools face demand for higher, ‘human’ skills」
- PwC「2026 Global AI Jobs Barometer」
- Stanford Digital Economy Lab「Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence」
- Pearson / Cognizant「The AI Workforce Pulse」
- パーソル総合研究所「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」
- Harvard Business School「Gen AI Boosts Productivity, But Can't Turn Novices Into Experts」
- NBER「Generative AI at Work」
※本記事では、各社・研究機関が公表した求人・雇用・AI活用に関する調査をもとに、筆者自身のキャリア支援経験から今後のキャリア形成について考察しています。「自分が介在したことで何を動かしたか」が将来のキャリア価値を決定することが実証されているわけではなく、本記事では今後検証していきたい仮説として提示しています。


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