仕事とランニングをつなぐ実証実験。「Run Office」から考えるこれからのオフィス
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published : 2026/9/3

Run Officeの実証から、「一日の過ごし方」で選ぶこれからのオフィスを考えます
仕事とランニングをつなぐ実証実験。「Run Office」から考えるこれからのオフィス
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仕事とランニングをつなぐ実証実験。「Run Office」から考えるこれからのオフィス
仕事をする。身体を動かす。人と話す。少し休む。そして、また仕事に戻る。
これまでオフィスは、主に「仕事をするための場所」として考えられてきました。しかし最近、その範囲が少しずつ広がっているように感じます。
2026年8月、WeWork JapanとNew Balanceが東京・渋谷で実施した「New Balance Run Office」。ランニングと仕事を一つの場所でつなぐという、少し変わった取り組みです。
ただ、このニュースの面白さは「オフィスで走れること」そのものではないように思います。その背景にあるのは、「働く人が、その場所で一日をどう過ごすのか」という、オフィスに対する新しい問いなのではないでしょうか。
仕事をする、移動する、人と話す、少し離れる。一日の過ごし方から働く場所を考える。
ランニングと仕事をつなぐ「Run Office」
WeWork Japanは2026年8月25日、「次世代の働き方」を探る実証実験を開始したと発表しました。
その第一弾として、New Balanceとともに8月24日から28日までの5日間、WeWork アイスバーグで実施したのが「New Balance Run Office」です。テーマは、「ランニングと仕事をシームレスにつなぐ」こと。用意されたのはワークスペースだけではありません。ランニングイベント、トレーナーへの相談、ストレッチなどのコンディショニング、コーヒーやリカバリードリンク、ロッカーなどを用意。さらに近隣のシャワー、銭湯、サウナなどとも連携しました。
WeWorkが紹介している一日の過ごし方を見ると、この取り組みの意図がよく分かります。
- 朝、仲間と走ってオフィスへ向かう。
- 仕事をする。
- ランニングについて学ぶ。
- 午後はオンライン会議。
- 夕方に身体を整え、再び走る。その後、仲間と交流する。
「仕事の前にランニングをする」「仕事が終わってからランニングをする」と分けるのではなく、仕事も、運動も、休息も、交流も、一つの一日の中に組み込んでいます。ここが、この取り組みで最も興味深いところです。
大事なのは「走ること」ではない
Run Officeという名前だけを見ると、「これからのオフィスには運動が必要なのか」という話にも見えます。 しかし、私はそうではないと思います。ランニングはあくまで一つの方法です。走りたい人もいれば、静かに本を読みたい人もいる。誰かと話すことで気分を切り替える人もいれば、一人になることで頭を整理する人もいるでしょう。
重要なのは、何をするかよりも、働く一日をどう過ごすか。その問いから逆算した結果、New Balanceとの取り組みでは「ランニング」という答えが選ばれた、と考えた方が自然です。
これは、オフィスの考え方としてかなり大きな変化ではないでしょうか。従来は、「仕事をするために必要な設備は何か」という問いからオフィスを設計していました。デスク、椅子、Wi-Fi、会議室、オンライン会議の環境。もちろん、今でもどれも必要です。
しかしRun Officeは、その一歩外側にある、「そこで働く人は、一日をどんな状態で過ごしたいのか」というところまで、オフィスの役割を広げています。
一日の中でも、集中したい時間、人と話したい時間、少し場所を変えたい時間があります。
なぜNew Balanceは「オフィス」と組んだのか
今回、もう一つ興味深いのが、オフィス事業者ではないNew Balanceがこの実証実験に参加していることです。
New Balanceにとっても、これはブランドや商品を知ってもらう機会になります。実際、Run Officeではシューズやアパレルを試すことができ、店舗やオンラインストアで使用できる特典も用意されています。当然、プロモーションとしての意味もあるでしょう。ただ、私はそれだけではないところが面白いと思います。
New Balanceが商品を使ってほしいのは、「走っている瞬間」だけではありません。ランニングが日常生活の中に入る機会そのものが増えれば、シューズやウェアが使われる場面も増えていきます。例えば、休日にだけ走る人を増やす。という発想だけではなく、
- 仕事の前に走る。
- 仕事の後に走る。
- 仕事仲間と走る。
- 一日の途中で身体を動かす。
そんな選択肢が日常に加われば、ランニングそのものが生活の中に入り込んでいきます。つまり、 商品を広告として見せるだけではなく、その商品が自然に使われる生活の場面そのものをつくる。今回の取り組みは、そのようにも読むことができます。
一日の大きな時間を占める「仕事」とランニングをつなぐ。その実験場所としてオフィスを選ぶ。New BalanceにとってRun Officeは、新しい商品体験の場であると同時に、「ランニングがある日常」を提案する場所にもなっているのではないでしょうか。
オフィスの役割が広がると、関わる企業も変わる
これはNew Balanceだけの話ではありません。もしオフィスが、「机を置いて仕事をする場所」だけであれば、そこに関係する企業はある程度限られます。しかし、「働く人が一日を過ごす場所」まで役割を広げると、話は変わります。
- 食。
- 睡眠。
- 運動。
- 家具。
- 音楽。
- アート。
- 香り。
- 健康。
- 教育。
- 地域の店舗やサービス。
これまで「オフィス」と直接関係がないように見えた企業も、働く人の一日の中では接点を持つことができます。そう考えると、今回のWeWorkとNew Balanceのコラボレーションは、単なる「オフィス×スポーツブランド」のイベントではなく、オフィスという場所の使われ方そのものが広がっている一つの兆しとして見ることもできます。
WeWorkにとっては、オフィスを働き方やウェルビーイングを試す場所へ広げる。New Balanceにとっては、ランニングを日常の中へ広げる。両社が目指す方向が重なるからこそ、この組み合わせが成立しているのかもしれません。
「出社する場所」から、「行く理由のある場所」へ
こうした動きの背景には、働く場所そのものの変化もあります。リモートワークという選択肢が定着したことで、「仕事をするなら、とにかく会社へ行かなければならない」という前提は以前より弱くなりました。すると企業側には、新しい問いが生まれます。なぜ、その場所へ行くのか。
2026年に公開された「The State of Workplace Hospitality 2026」でも、これからのオフィスについて、義務として行く場所ではなく、人が自ら選んで行きたくなる場所にするという方向性が示されています。
- 人と会える。
- チームとのつながりを感じられる。
- 集中できる。
- 気分を変えられる。
- 身体を整えられる。
- 新しい刺激を得られる。
そうした「そこで得られる経験」も、オフィスを選ぶ理由になり始めています。
建物の外まで含めて「働く場所」になる
Run Officeでもう一つ特徴的なのが、WeWorkの建物だけで完結させていないことです。近隣のシャワー、銭湯、サウナなどとも連携しています。つまり、オフィスの中だけで一日を完成させようとしていません。
- 建物を出る。
- 街を歩く。
- 走る。
- 周辺の施設を使う。
- また戻る。
働く場所の範囲が、デスク → オフィス → 周辺 → 街へ広がっています。これは、これからのオフィス選びを考えるうえでも面白い視点です。これまでは「駅から徒歩何分か」が立地評価の中心でした。もちろん、便利さは重要です。
でも、
- その場所へ向かう途中はどんな街なのか。
- 昼休みにどこへ行けるのか。
- 少し歩きたくなったとき、どんな景色があるのか。
- 仕事から一度離れられる場所があるのか。
そうしたことまで含めて、「そこで一日を過ごしたいか」で働く場所を選ぶ人も増えていくのかもしれません。
働く場所は建物の中だけではありません。そこへ向かう時間や周辺の街も、一日の一部です。
work and placeにも、「仕事には直接必要ではない場所」がある
今回のニュースを見ながら、私たちが神戸・北野で運営しているwork and placeについても改めて考えました。work and placeには、個室、オープンスペース、会議室があります。これらは、仕事をするための場所です。一方で、
- テラス。
- 仮眠室。
- プライベートサウナ。
など、デスクワークそのものには直接必要ではない場所もあります。仕事の効率だけを考えるなら、「オフィスになぜ必要なのか」と思われるかもしれません。でも、一日を通して考えると見え方が変わります。
- 集中する。
- 少し離れる。
- 外の空気に触れる。
- 一人になる。
- 誰かと話す。
- 休む。
- そして、また仕事へ戻る。
働く人は、一日中同じ状態ではありません。だから、働く場所も一つの状態だけを求めなくていい。私たちは、そう考えています。
集中し続けることだけが、良い一日とは限りません。少し離れ、また仕事へ戻ることも働く時間の一部です。
「何があるか」ではなく、「そこでどんな一日になるか」
今回のRun Officeは、5日間の実証実験です。この一例だけをもって、「これからのオフィスにはランニングが必要だ」という話ではありません。むしろ逆です。
重要なのはランニングではなく、一日をどう過ごすかという問いから、働く場所を考え始めていること。 その答えが、ある人にはランニングかもしれない。ある人には静かな個室かもしれない。テラスかもしれない。人との会話かもしれない。街を歩く時間かもしれない。
オフィスを探すとき、
- 賃料はいくらか。
- 駅から何分か。
- 何人入れるか。
- どんな設備があるか。
もちろん、それらは大切です。でも、そこにもう一つ、「ここで一日過ごしたら、自分はどんな状態で仕事を終えるだろう」という問いを加えてみる。これからは、そんなオフィスの選び方もあっていいのではないでしょうか。
オフィスを選ぶことは、そこで過ごす一日を選ぶこと。まずは足元から、その一日を始めてみる。
オフィスを選ぶ。というより、そこで過ごす一日を選ぶ。Run Officeのニュースは、そんなこれからの働く場所を考えるきっかけになる取り組みだと感じました。
ちなみに私も最近、New Balanceの靴を買いました。Run Officeまではいかなくても、まずはNew Balanceで出勤するところから。
参考資料
- WeWork Japan「次世代の働き方の実証実験を開始/第一弾『New Balance Run Office』」(2026年8月25日)
- WeWork Japan「New Balance Run Office|ランナーのためのオフィス」
- Sodexo / Circles「The State of Workplace Hospitality 2026」
※本記事では、各社が公表している情報をもとに、work and placeがオフィス運営者の視点からこれからの働く場所について考察しています。


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