スクールバスの空き時間が地域の足に。「共有して続ける」という社会設計
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published : 2026/10/20

スクールバスの共有から、今ある資源を組み替えて続ける社会の価値を考えます。
スクールバスの空き時間が地域の足に。「共有して続ける」という社会設計
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スクールバスの空き時間が地域の足に。「共有して続ける」という社会設計
2026年10月19日、相模原市で少し気になる交通サービスが始まりました。
使うのは、新しく購入したバスではありません。
市教育委員会が管理するスクールバスの空き時間です。
相模原市藤野地区では、児童・生徒の送迎に使われているスクールバスを、使われていない時間帯には地域住民も利用できるようにし、有料の公共ライドシェアとして本格運行を始めました。7月からの試験運行を経て、10月19日に有料化されています。相模原市
その3日前の10月16日には改正地域交通法が施行され、地域にある輸送資源をフル活用して「交通空白」を解消する新しい制度が始まりました。相模原市の計画は、この制度の全国初の認定例です。国土交通省
このニュースで面白いと思ったのは、「新しい交通サービスが始まった」ということ以上に、新しい車両を増やしたのではなく、すでにあるものの使い方を変えたことです。
スクールバスは以前からありました。
移動手段を必要としている住民もいました。
でも、「学校のためのバス」と「地域住民の交通」は、別のものとして扱われていた。
今回変わったのはバスそのものではなく、「学校専用」という境界線なのかもしれません。

新しいバスを増やすのではなく、すでにあるスクールバスの「使われていない時間」を地域の交通へ開く。 ※写真はイメージ図です
「足りないなら増やす」だけでは難しくなる
これまで、何かが不足すると、新しいものを増やすことが自然な解決策でした。
交通が足りなければバスを増やす。
施設が必要なら建物をつくる。
人が足りなければ採用する。
新しい需要には、新しい供給を用意する。
人口も経済も拡大する社会では、それで成立しやすかったのだと思います。
ところが人口が減り、働く人も減り、物価や設備維持費が上がる社会では、一つの用途のためだけに専用の人や設備を持ち続けることが難しくなる場面が増えていきます。
OECDも、人口減少地域では労働力やスキルの不足、公共サービスの規模の経済の低下、税収基盤の縮小によって、サービスやインフラの維持が難しくなると指摘しています。その対応として、既存資産の有効活用や建物の用途転換、自治体間で資源やサービスを共有することなどを挙げています。OECD
ここで、これまでとは少し違う価値が生まれてくるのではないでしょうか。
新しく増やすことだけでなく、今あるものを組み替えて続けることにも、これから価値が出てくるのではないか。
当たり前が変わるとき、価値も変わる
今は、いろいろな分野で「これまで当たり前だったこと」が当たり前ではなくなっています。
一つの会社が設備を所有する。
一人の専門家を一社が雇う。
一つの建物は一つの用途で使う。
学校の設備は学校が使う。
これまでなら、ごく自然だった考え方です。
でも、前提となる人口や人材、コストが変われば、合理的な使い方も変わります。
時代が大きく変わるとき、変わるのは技術や制度だけではなく、「何に価値があると考えるか」そのものなのかもしれません。
「専用で持っていること」に価値があったものが、「必要な人が必要なときに使えること」に価値を持つ。
「新しくつくること」に加えて、「すでにあるものから別の価値を生み出すこと」にも価値が出る。
「こうでなければならない」という境界が少しずつ塗り替わっていく。
不安定な時代とも言えますが、私はこういう変化には少しワクワクします。
今までつながらなかったものを、「本当につなげられないのだろうか」と考え直せるからです。
「共有」は、安く使うためだけのものではなくなる?
「共有」と聞くと、カーシェアやシェアオフィス、民泊などのシェアリングエコノミーを思い浮かべます。
所有するより安い。
必要なときだけ使えて便利。
これまでの共有サービスでは、そんな利用者側のメリットがよく語られてきました。
でも今回のスクールバスは、少し性質が違います。
共有する理由は、「便利で安いから」だけではありません。
地域交通そのものを続けるために、すでにある資源を別の人にも開く。
共有が、節約や利便性のための選択肢から、サービスを継続させるための方法にもなり始めているように見えます。
OECDも人口減少地域について、自治体間で資源や専門性をプールし、教育、医療、交通などのサービスを共同で提供することを、サービス維持の方法の一つとして挙げています。OECD
つまり、
「余っているからシェアする」だけではなく、「続けたいから共有する」。
共有する意味そのものも、少し変わってきているのかもしれません。

「共有」は、安く使うための仕組みだけではなく、サービスそのものを残すための方法にもなり始めています。
人材を共有すると、知識も動く
この考え方は、設備だけではありません。
例えば人材です。
小さな会社が、マーケティング、DX、人事、経営企画などの専門人材を、それぞれ一人ずつ常勤で雇うことは簡単ではありません。
一方で、一人の専門家が複数の企業に関わることができれば、一社では持てなかった専門性を利用できるようになります。
経済産業省が進める「地域の人事部」でも、地域の企業群が自治体、金融機関、教育機関などと連携し、人材の確保・育成・定着に取り組んでいます。対象には兼業・副業人材も含まれ、「人材シェアリング」も具体的な手法として挙げられています。経済産業省
ただ、人が複数の企業や組織に関わるとき、共有されるのは「その人の労働時間」だけではありません。
その人が別の会社で経験したこと。
別の業界で見た方法。
問題を解決したときの考え方。
人とのつながり。
そうした情報や知識、経験も一緒に動きます。
実際、企業間を移動する知識労働者が、移った先の企業のイノベーションに影響する「knowledge diffusion(知識拡散)」については以前から研究されており、スウェーデン企業を分析した研究では、知識労働者の移動と受け入れ企業のイノベーション成果との間に強い関連が確認されています。ただし、誰が移動しても同じ効果が出るわけではなく、移動元・移動先の条件によって効果は異なります。サイエンステクライド
人の循環は、知識の循環でもある。
ここは、人材を複数の組織で活かすことの大きな価値だと思います。
一社の中だけにあった知識が、別の会社へ持ち込まれる。
「この業界では当たり前」というやり方に、別の業界の視点が入る。
企業の境界を越えて人が動くことで、情報や発想も循環する。
特に小さな事業者にとっては、人材を共有することが、単に人手不足を埋めること以上の意味を持つ可能性があります。
でも、人を共有することは簡単ではない
一方で、人材については、設備以上に難しい問題があります。
A社で知ったことを、B社でどこまで使ってよいのか。
競合企業の両方に関わってよいのか。
顧客情報や経営情報をどう守るのか。
仕事の中で生まれたアイデアや成果物は誰のものなのか。
複数の企業から同時に重要な仕事を頼まれたとき、誰を優先するのか。
そして、一人の専門家に複数企業から仕事が集まりすぎれば、今度は専門家本人が続けられなくなるという問題も出てきます。
人材を共有するということは、単純に「一人を複数社で使えば効率的」という話ではありません。
人を共有することは、知識の境界をどう設計するかでもある。
そう考えると、共有とは「境界をなくすこと」ではないのだと思います。
むしろ、
共有とは、境界を引き直すこと。
なのかもしれません。
学校だけが使っていたバスを、地域住民も使えるようにする。
一社だけで働いていた専門家が、複数の企業に関わる。
一つの用途で使っていた施設を、別の時間には違う人が使う。
これまで固定されていた「誰のものか」「何のためのものか」という境界を、続けられる形へ引き直しているとも言えます。
制度が変わると、すでにあるものの価値も変わる
相模原の事例でもう一つ面白いのは、新しい技術や設備が登場したわけではないことです。
スクールバスは、以前からありました。
住民の移動需要もありました。
足りなかったのは、バスではなく、それらを接続できる仕組みでした。
改正地域交通法によって、国土交通大臣の認定を受けた計画には道路運送法の特例が適用され、市教育委員会が管理するスクールバスの空き時間を地域住民の有償運送へ活用することが可能になりました。国土交通省
これはとても興味深いと思います。
資源そのものに価値がなかったのではない。
制度上、その価値を別の場所で使えなかった。
制度が変わると、同じバスの価値が変わります。
「子どもを送迎する車両」だったものが、時間帯によっては「地域住民の移動を支えるインフラ」にもなる。
新しい価値をつくったというより、すでにあった価値を別の場所へ開いたとも言えます。
そう考えると、これから社会の課題を考えるとき、
「何が足りないのか」
だけではなく、
「すでにあるのに、制度や組織の境界によって使えていないものは何か」
という問いも重要になるのではないでしょうか。

新しい資源をつくる前に、「すでにあるのに、つながっていないものはないか」と考えてみる。
※写真はイメージ図です
共有すれば、すべてうまくいくわけではない
もちろん、「何でも共有すれば効率的になる」という話ではありません。
共有には、共有するためのコストがあります。
スクールバスなら、学校行事などで急に車両が必要になった場合の調整が必要です。
事故が起きた場合の責任、安全管理、保険、整備費、利用時間の優先順位なども考えなければなりません。
人材なら、守秘義務、競業、知的財産、責任範囲、稼働時間を設計する必要があります。
自治体同士の共同サービスでも、OECDは資源を共有するメリットと同時に、参加主体が増えることによる調整コストや、意思決定・責任分担の複雑化を指摘しています。OECD
そして公共サービスには、もう一つ難しい問いがあります。
余っている資源があるときだけ利用できるサービスで、本当に生活を支えられるのか。
交通なら、「確実に利用できること」そのものにも価値があります。
需要が大きければ、最初から専用設備を持った方が効率的な場合もあります。
逆に、利用者が少なすぎれば、共有してもサービスとして成立しないかもしれません。
だから、「専用」が古くて「共有」が新しいという単純な話ではありません。
新設した方がいいもの。
専用で持った方がいいもの。
共有することで続けやすくなるもの。
その見極めが必要です。
「共有できるように設計する」という仕事
今回のニュースを見ていて感じるのは、共有は、余っているもの同士をただつなげれば成立するわけではないということです。
誰が使うのか。
いつ使うのか。
何を優先するのか。
誰が責任を持つのか。
どこまで情報を共有するのか。
どこには境界を残すのか。
そうした設計があって、初めて共有できます。
つまり、これから価値を持つのは「共有すること」そのものより、
共有できるように仕組みを設計すること
なのかもしれません。
そしてこれは、設備、人材、場所、交通、知識など、いろいろな分野に広げて考えられそうです。
新しくつくる価値と、組み替えて続ける価値
新しいものをつくることは、これからも必要です。
新しい技術も、会社も、建物も、サービスも生まれていくでしょう。
だから、「新しくつくる時代が終わる」と考えているわけではありません。
ただ、それとは別に、これまであまり目立たなかった価値が大きくなっているように感じます。
すでにあるものを見つける。
別の用途へ開く。
違う人と共有する。
組み合わせを変える。
そして、今まで続けられなかったものを続けられる形にする。
新しく増やすことだけでなく、今あるものを組み替えて続けることにも、これから価値が出てくる。
相模原のスクールバスは、その小さな一例なのだと思います。
「学校のバスでなければならない」という境界を少し引き直すことで、新しい地域交通になった。
時代が変わると、「こうでないといけない」という前提も変わります。
そして前提が変われば、価値も変わる。
何かが足りないときに、新しいものをつくる。
それと同じくらい、
今すでにあるものを見直し、別の組み合わせで価値を生み、続けられる仕組みに変える。
そんな力にも、これからもっと価値が出てくるのではないでしょうか。
「継続できること」と「共有すること」。
そして、固定されていた境界を引き直すこと。
これらは、これからの社会を考えるとき、思っている以上に近いテーマなのかもしれません。

新しくつくることに加えて、今ある資源の境界を引き直し、別の組み合わせで続けられる仕組みに変えていく。
参考資料
国土交通省「本日施行の改正地域交通法に基づき、全国初の『自動車地域旅客運送サービス再構築実施計画』を認定しました」(2026年10月16日)国土交通省
相模原市「スクールバスの空き時間を活用した公共ライドシェアの運行を開始します」(2026年10月19日)相模原市
OECD『Shrinking Smartly and Sustainably: Strategies for Action』(2025年)OECD
経済産業省「地域の人事部」(2026年)経済産業省
Braunerhjelmほか「Labour market mobility, knowledge diffusion and innovation」European Economic Review(2020年)サイエンステクライド
※相模原市の取り組みは2026年10月に本格運行を始めたばかりで、長期的な収支や地域交通への効果が確認されたものではありません。また、人材・施設・サービスの共有には、責任分担、調整、安全性、機密情報など固有の課題があります。本記事では「共有」を一律に推奨するのではなく、既存資源を組み替えることが社会や事業の継続可能性につながる条件について考察しています。

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